業務の属人化は会社を滅ぼす|開業20年でレセプト担当が1人だけだった職場の実態
「クリニックの売却も視野に入れている」
退職後、院長からそう聞いたとき、私はすぐに思いました。それは無理だろう、と。なぜなら、その職場では開業から20年以上経っても、レセプト業務ができるスタッフが1人しかいなかったからです。
開業20年以上、レセプト担当は1人だけ
そのクリニックには開業当初からいるベテランの事務スタッフがいました。若い頃は可愛らしい雰囲気だったそうですが、私が復帰したときにはすっかりお局タイプに変化していました。後輩スタッフにきつい物言いをし、不機嫌なオーラを纏って仕事していました。誰も逆らえない存在でした。
そのスタッフはかつて妊娠・出産で退職していましたが、院長のたっての願いで復帰。子供がいて大変だからという理由で、出勤時間が8時40分でよいことになっていました。他の事務スタッフは8時半前から準備しているのに、そのスタッフだけ特別扱いです。
それから20年以上が経ちました。子供はもうとっくに大きくなっているのに、出勤時間の特別扱いはそのまま。他のスタッフが不満を抱くのも当然です。
そして問題の核心は、開業から20年以上経っているにもかかわらず、レセプト業務ができるスタッフがその人1人しかいないことでした。他のスタッフに教えていないのです。
院長もえこひいきしていた
院長への塩対応も目立ちましたが、院長はそのスタッフに注意できないタイプでした。そのスタッフがトリプルミスを犯したときも笑って済ませていたのに、後輩スタッフがミスをしたときは鬼の首を取ったように怒鳴る。このえこひいきが職場全体の雰囲気を悪くしていました。
なぜ院長がそのスタッフに強く言えないのか。理由は明白です。そのスタッフがいなければレセプト業務が回らないからです。これが業務の属人化が引き起こす、経営者側のリスクです。
業務の属人化とは何か
業務の属人化とは、特定の人しかその業務のやり方を把握していない状態のことです。いわゆる「ブラックボックス化」で、その人が休んだり退職したりすると業務が完全に止まってしまいます。
私は社労士の方の動画やコンテンツを見ていたので知っていましたが、属人化は会社が絶対にやってはいけないこととして、どのチャンネルでも必ず挙げられていました。
業務の属人化が引き起こすリスク
属人化が引き起こすリスクは多岐にわたります。
①担当者が退職すると業務が止まる
20年かけて積み上げたレセプトのノウハウが、その人の退職と同時に消えてしまいます。後任者の育成や引き継ぎに膨大な時間とコストがかかります。
②経営者がその人の言いなりになってしまう
まさにこのクリニックがそうでした。院長はそのスタッフに強く言えない。ミスをしても笑って済ませる。「いなくなると困る」という状況が、特別待遇やえこひいきを生み出すのです。
③他のスタッフのモチベーションが下がる
同じ事務スタッフなのに出勤時間が違う、ミスしても怒られない、特別扱いされている。こうした不公平感が積み重なると、他のスタッフが辞めていきます。大量離職につながるリスクもあります。
④ミスや不正が発見されにくくなる
その業務を知っているのが本人だけなので、周囲がチェックできません。トラブルが起きても発見が遅れ、隠蔽されるリスクも高まります。
⑤会社の売却・事業承継が難しくなる
これが院長にとって一番痛い話のはずです。業務が属人化している会社は、買い手から見てリスクが高い。「その人が辞めたら業務が回らなくなる会社」を買いたいと思う人はいません。
売却を考えているなら、なおさら属人化は解消すべき
院長から「売却も視野に入れている」と聞いたとき、私はその矛盾に気づきました。売却を考えているのに、20年以上レセプト業務を1人に任せっきりにしている。これでは買い手はつかないでしょう。
業務の属人化を解消するには、マニュアルを作り、複数のスタッフが同じ業務をできるようにする「標準化」が必要です。誰がやっても一定の品質で業務が回る状態にしておくことが、組織としての強さになります。
働く側への教訓
「自分にしかできない業務」を持つことで特別な地位を築こうとするスタッフがいます。短期的には自分の立場を守れるかもしれませんが、長期的には自分自身の首を絞めることにもなります。
そして経営者へ。特定のスタッフに依存した経営は、そのスタッフに弱みを握られる経営です。スタッフを大切にすることと、業務を属人化させることは全く別の話です。
誰が休んでも、誰が辞めても回る組織をつくること。それが、スタッフにとっても経営者にとっても、本当に強い職場の条件だと思います。
業務はたった一人いればうまく回るのではありません。その特別扱い以外のスタッフが一生懸命頑張っていてくれるから円滑にうまく行っているのです。
本当に良い上司は20年で五本の指に収まるほど少なかった。職場の人間関係について書きます。
見学で惹かれた先輩が入社2日目から違和感だらけ。一見いい人の裏の顔と見極め方。

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